まちこの部屋

聖なるあきらめ

たどりつけない場所

私の好きな半崎美子さんの曲の歌詞で「声を枯らして泣いてもたどり着けない場所がある」というのがあります。

もちろん、次男のいるあの世も「たどり着けない場所」ですが、私がなかなか足を踏み入れる事のできない場所の一つに、二駅先のショッピングセンターのバッグ売り場があります。


次男が本意ではない大学に行かざるを得なくなった入学が迫った時の事です。

「大学に行くのに新しいリュックを買わないとね❗」と次男の気持ちが上がるよう話していた時の事です。

引きこもっていた夫が、話している私達のところへ、ヨレヨレのリュックを持って入って来ました。

「新しいの買うお金もったいないから、俺が使っていたの使って」と私達の前に放り投げたのです。

私は悔しいやら、情けないやら、怒りで正に体が震えました。

「誰のせいで、好きな大学も、うけられなかったかわかってんのか?これから大学に行く子のリュック代を稼ごうとするならともかく、ふざけんじゃないよ」と怒鳴りました。

騒ぎを聞いていた長男も激怒。

「おい!自分が何言ってるかわかってんのか?くそ、くそ、お前はくそ!」と怒鳴る長男、黙ってうつむいている次男。

阿鼻叫喚とはこういう事かと思いました。

その後、私も長男も次男をひっぱるようにして「こんなゴミと同じ空気は吸いたくない」と、三人でショッピングセンターに行き、

次男にリュックを選ばせ買いに行ったのです。

電車に乗っている間中、悔しくて涙が止まりませんでした。

勝手に仕事を辞めて、引きこもって、働く気がなく顔さえ見れば「生活保護受けよう」という夫。震災や会社の倒産で本意ではない仕事についても、皆真面目に暮らしているのに、どうしてこうなの?と思うだけで悔しくて文字通りはらわたが煮えくりかえりました。

結果、買ったリュックの色、形、模様を私ははっきり覚えていました。次男は失踪した時にも持って行ったのです。

警察では、遺体の引き渡しの前に「どんなリュックですか?」と聞かれ、私が詳細に述べたので「あー、一致しますね」と警察の方が言った顔を今でも忘れられません。


未だにあのショッピングセンターのバッグ売り場には、たどり着けません。

きっと死ぬまであそこには行けません。

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